応用脳科学アカデミーアドバンスコース「脳とAI」第2回(我妻先生・稲邑先生・大森先生)
タイトル「脳型知能とその工学応用」
講師紹介
我妻 広明(わがつま ひろあき)先生
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【現職】
- 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 准教授
【経歴】
- 1986年 - 1990年 NEC米沢日本電気株式会社 (NEC日本電気府中事業場出向PC-9801note開発)
- 2000年4月 - 2003年3月 独立行政法人理化学研究所 基礎科学特別研究員
- 2003年4月 - 2009年9月 独立行政法人理化学研究所 BSI創発知能ダイナミクス研究チーム 研究員
- 2007年4月 - 2009年9月 理研BSI-トヨタ連携センター 研究員
- 2009年10月 - 2012年3月 独立行政法人理化学研究所 BSI創発知能ダイナミクス研究チーム 客員研究員
- 2009年10月 - 現在 国立大学法人 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 准教授
- 2012年1月 - 現在 国立研究開発法人 理化学研究所 BSI 神経基盤情報センター 客員研究員
- 2016年3月 - 2020年3月 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 Artificial Intelligence Research Center (AIRC) クロスアポイントフェロー
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【研究概要】
脳神経科学の知見や生物から学ぶ力学系記述を用いた脳型ロボットの研究を行っています。脳を複雑系として捉え、時間発展と情報生成装置としての原理記述について注目しています。身体性や構成論的アプローチを通して、非線形力学・振動同期現象の数理記述の可能性を探求し、「人」の主体性や社会性を、単なる要素分解や機械論に還元しない新たな科学の枠組みを脳科学に期待しています。
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【主な業績】
【書籍】
- Dimitrova, M., Wagatsuma, H. (2019): Cyber-Physical Systems for Social Applications, IGI Global.
- 我妻広明(2017): 脳・身体知から自動運転まで(6章), 鳥海 不二夫 編「強いAI・弱いAI 研究者に聞く人工知能の実像」丸善出版.
- Krichmar J, Wagatsuma H. (2011): Neuromorphic and Brain-Based Robot, Cambridge University Press. 他.
【代表的な論文】
- Maniamma, J., Wagatsuma, H. (2020): A Semantic Web-based Representation of Human-logical Inference for Solving Bongard Problems, Journal of Universal Computer Science, Special Issue on New Trends in Logic Reasoning Approaches for Rational Decision Making, in press.
- Singh, B., Wagatsuma, H. (2018): Two-Stage Wavelet Shrinkage and EEG-EOG Signal Contamination Model to Realize Quantitative Validations for the Artifact Removal from Multiresource Biosignals, Biomedical Signal Processing and Control, Vol. 47, pp. 96-114.
- Komoda, K., Wagatsuma, H. (2017): Energy-Efficacy Comparisons and Multibody Dynamics Analyses of Legged Robots with Different Closed-loop Mechanisms, Multibody System Dynamics, Vol. 7, No. 3, pp. 657-664.
- Ai, G., Sato, N., Singh, B., Wagatsuma, H. (2016): Direction and Viewing Area-Sensitive Influence of EOG Artifacts Revealed in the EEG Topographic Pattern Analysis, Cognitive Neurodynamics, Vol. 10, No. 4, pp.301-314, 他
【代表的な外部予算】
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内閣府・経産省所管:
- オントロジー推論のリアルタイム処理を実現する組み込み技術の実現と安全・安心分野への応用,NEDO「次世代人工知能技術社会実装」受託研究,代表
- 平成30年度「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業(自動走行システムの安全性評価技術構築に向けた研究開発プロジェクト)」 (経産省) 分担
- データ駆動型人工知能と論理知識型 人工知能の融合による解釈可能な自動運転システムに関する研究,NEDO 「次世代ロボット中核技術開発」(次世代人工知能フレームワーク研究・先進中核モジュール研究開発),分担(H27〜H30)、他 文科省所管: i) 科研費
- 脳-身体-環境における動的関係性を扱う情報の時空間階層性:ロボット設計原理の検討,新学術領域研究「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」公募班,代表 (H28〜29)
- 科研新学術領域研究「共創言語進化」計画班「言語の起源・進化の構成的理解」,分担、他 ii) JST(産学連携関連)
- CFRP弾性材の縫い込みを可能にする腰部負担軽減着衣とセミオーダー式フィッティング法の開発,受託研究,JST H29地域産学バリュープログラム,研究責任者 (H29〜30)、他 国際研究ファンド:
- ニューロインフォマティクス国際連携(INCF Seed Funding 2017)、他
開催概要
- 講義内容
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サイエンスにおいては、機械に感情を保有させる議論がある。人のような感情は「寿命」「進化」が必要と指摘もあるが、問題はその先である。「作込みの感情でない、内在し、中から生まれ出る」という主張は一理あるが、「偶然生物に感情の回路が備わったとして、なぜ淘汰されなかったか」に踏み込む必要がある。つまり、個を超えた、社会における感情の必要性である。自分の「痛み」は、相手の「痛み」になるか? 集団、社会、状況における「悲しみ」を理解、共感できるか。我々は物理的な痛みだけでなく、心の悲しみを持つ。だから、相手がこんなことをして欲しくない、これはとても危険なことである、こんなことはあって欲しくないという状況の認識ができる。これらの観点から機械(AI)と生物の痛み、そしてその先の倫理に言及する。シャノンの情報理論における「情報の量」の議論を超えた、生き物にとっての「情報の『質』」を扱う段階に来ている。
エンジニアリングにおいては、社会に持続的なイノベーションを作り出す仕組みづくりとして、インダストリー4.0が議論され、情報技術と製造技術の統合を行うことで、製造業の生産性を高める方策が進められている。ことに少量多品種生産、自動機械と人間の協働による生産工程の課題においては、現場における効果的なデータ蓄積とその分析のためのデータ構造や基盤が必要となる。従来は人手でやっていたデータサイクルを自動化しつつも、熟練技術者の気づき、ヒヤリ・ハットなど問題発生を未然に防ぐ方法論の導入が必要不可欠となっている。本講演では、熟練者の熟練者の気づき、脳型知能とその工学応用に注目しつつ、AI技術の現状と展望について議論する。
- 日時
- 2021年10月12日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※我妻先生の講義は、13:00~14:10です。
- 場所
- オンライン開催
- お問い合わせ先
- 本アカデミーに関するご質問等は、応用脳科学コンソーシアム事務局ホームページの ▶ お問い合わせフォームより、お問い合わせください。
タイトル「クラウド型VRを用いた対話型知能ロボット研究の展開」
講師紹介
稲邑 哲也(いなむら てつなり)先生
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【現職】
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国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授
総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻 准教授
【経歴】
- 1995年 東京大学工学部機械情報工学科 卒業
- 1997年 東京大学大学院 工学系研究科 情報工学専攻 修士課程修了
- 2000年 東京大学大学院 工学系研究科 情報工学専攻 博士課程修了
- 2000年 科学技術振興事業団CREST 研究員
- 2003年4月 - 2006年3月 東京大学 大学院・情報理工学系研究科 講師
- 2006年4月 - 2007年3月 東京大学大学院情報理工学系研究科 特任助教授
- 2006年4月 - 現在 総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻 准教授
- 2006年4月 - 現在 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授
- 2011年8月 - 2013年7月 文部科学省研究振興局 学術調査官
- 2007年4月 - 2011年6月 東京大学IRT研究機構 特任准教授 1995年 東京大学工学部機械情報工学科卒業
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【研究概要】
人間の日常生活行動を支援することのできる対話型知能ロボットの実現に向けた研究に取り組んでいます.ヒューマノイドロボットの開発から始まり,人間の行動理解,行動の言語的表現への変換法,タスク達成のための協力的対話制御法,対話からの語彙の獲得,ロボットの道具利用スキルの学習,スポーツ動作のコーチングロボット,などの研究に携わってきました.また,近年では,ロボットとの対話学習を効率化するためのクラウド型VRシステムを開発し,人間が参加する新しい形態のロボット競技会を主催する活動も行っています.
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【主な業績】
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【受賞歴】
- 2017年 RoboCup Federation Open Source Software Award
- 2013年 ロボカップジャパンオープン2013 人工知能学会賞
- 2013年 船井科学技術振興財団 船井学術賞
- 2013年 日本機械学会 日本機械学会教育賞
- 2011年 日本ロボット学会 第4回功労賞
- 2008年 日本ロボット学会 研究奨励賞
- 2003年 船井情報科学財団 船井情報科学奨励賞受賞
- 仮想現実を用いたニューロリハビリテーションのためのクラウドプラットフォーム,稲邑 哲也,計測と制御 56(3) 204-209 2017
- 長時間の身体的社会的対話実験のためのクラウド型VRプラットフォーム,稲邑 哲也,計測と制御. 55(10) 890-895 2016
- 社会的知能研究のためのシミュレーションプラットフォーム:SIGVerse,稲邑 哲也,日本ロボット学会誌 31(3) 240-243 2013
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【著書】
- ロボットのおへそ,丸善ライブラリー,2009
【解説記事】
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開催概要
- 講義内容
- 自動運転や荷物のパッキング・運搬作業など,近年の機械学習研究の成果によって知能ロボットの能力が拡大しつつあります.しかしながら,現状のロボットが不得意としている事の一つは人間とのコミュニケーション行動です.特に日常生活に関わる常識が必要とされる行動や人に対する適切な振る舞いを学習するには,人間との対話行動経験が圧倒的に不足しており,簡単には実現が難しいターゲットです.この講演では、VR空間の中で知能ロボットとの対話実験をすることが可能なクラウド型VRプラットフォームを提案し、実ロボットでは収集が困難な対話経験の効率的な収集とその経験の活用についての研究を概説します.また,RoboCupなどでのロボット競技会を通して、ロボットの対話能力が実際の日常生活環境で役にたてるかどうかの評価法を確立する試みについても解説します.
- 日時
- 2021年10月12日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※稲邑先生の講義は、14:20~15:30です。
- 場所
- オンライン開催
- お問い合わせ先
- 本アカデミーに関するご質問等は、応用脳科学コンソーシアム事務局ホームページの ▶ お問い合わせフォームより、お問い合わせください。
タイトル「思いやりをもって協調的インタラクションを行う脳認知アーキテクチャ」
講師紹介
大森 隆司(おおもり たかし)先生
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【現職】
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玉川大学工学部/脳科学研究所/学術研究所 教授
【経歴】
- 1978年3月 東京大学工学部計数工学科卒業
- 1980年3月 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
- 1981年4月 東京大学工学部 助手(1986年3月まで)
- 1986年4月 東京農工大学工学部 講師・助教授
- 1995年4月 東京農工大学大学院生物システム応用科学研究科 助教授
- 1998年7月 東京農工大学工学部 教授
- 2000年5月 北海道大学大学院工学研究科 教授
- 2004年4月 北海道大学大学院情報科学研究科 教授
- 2006年4月 玉川大学学術研究所 教授
- 2007年4月 玉川大学工学部・脳科学研究所 教授
- 2015年4月-2017年3月 日本認知科学会 会長
- 2017年4月-2019年3月 日本神経回路学会 会長
- 2021年4月 玉川大学脳科学研究所特別研究員/日本大学情報科学研究所上席研究員
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【研究概要】
人間の知的機能や心の機能についての脳での実現メカニズムを、情報論的な立場から議論し、工学的な手段で実現できるレベルでの理解と実現を目指している。
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【主な業績】
- 長田悠吾,石川 悟,大森隆司,森川幸治:意図推定に基づく行動決定戦略の動的選択による協調行動の計算モデル化,認知科学,Vol.17,No.2,pp.270-286,2010
- 岩崎安希子, 下斗米貴之, 阿部香澄, 中村友昭, 長井隆行, 大森隆司: 遊びロボットによる子どもの性格傾向の推定に関する研究, 日本感性工学会論文誌, 第12巻, 1号, pp.219-227, 2013
- 高橋英之, 大森隆司:社会認知における「社会的思い込み効果」の役割とその脳内メカニズム, 認知科学,Vol.18,No.1, pp138-157,2011
- Miyata M., Omori T. : Modeling emotion and inference as a value calculation system, BICA2017, 2017
- Takahashi H., IZUMA, Matsumoto M.,Matsumoto K., Omori T. : The anterior insula tracks behavioral entropy during an interpersonal competitive game, PLOS ONE,2015
- Miyata M., Omori T. : Emergence of symbolic inference based on value-driven intuitive inference via associative memory, BICA 2018
- 宮田,大森:価値に駆動された連想記憶に基づく人の推論過程の統合モデルの提案,知能と情報Vol.31,No.3,pp.712-721,2019
- 大森,宮田:ヒト脳にシンボル的な思考を生み出す脳アーキテクチャについて,人工知能学会研究資料 SIG-AGI-014-07, 人工知能学会,2020
- 大森,宮田:ヒト脳にシンボル的な思考を生み出す脳アーキテクチャについて,人工知能学会研究資料 SIG-AGI-014-07,人工知能学会,2020
開催概要
- 講義内容
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人間の行動が広義の価値知覚に駆動されるということは認知科学,行動経済学などで広く知られた事実である.価値に導かれる点は思考も同様であろう.古典的AIでは,推論を離散的な事象の間のゴール探索と定義し,多くの論理様の推論手法を生み出してきた.また最近のNNは,試行錯誤と入力データの連続空間中での関数近似により,強化学習などの価値最大化のための行動決定を実現している.しかし,現在のAIの推論能力は人間の推論に大きく劣る.人と共に働くことのできる次世代のAI開発のためにも,人の脳の推論過程の理解が必要である.
人の思考には,瞬間的に判断する直観的思考と,意識的に推論を進める論理的思考がある.特に後者は意識に関わる点で興味深いが,その脳メカニズムについては,現時点では理論は少ない.そこで本研究では,意識の脳モデルとしてGlobal Workspace Theory(GWT)を想定し,その最も単純化したプロトタイプとして,広義の価値の知覚に駆動された連想記憶による直観的推論と論理的推論の脳認知アーキテクチャを解説する.
価値に駆動される推論は,人間のコミュニケーションの理解にもつながる.我々は,自分の意思決定に価値推論を用いるが,そこに他者の価値の推論機構を付加すると,思いやりを持ってインタラクションするAIが実現できそうである.当日は,価値に駆動された推論機構のモデルと,その延長としての他者への思いやりを実現するAIの設計原理について議論する.
- 日時
- 2021年10月12日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※大森先生の講義は、15:40~16:50です。
- 場所
- オンライン開催
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