2023年度 R&D研究会

応用脳科学R&D研究会は、一社で取り組むにはまだリスクが大きい研究テーマについて、会員企業と研究者が連携して、事業活用を見据えた研究開発を推進するためのプラットフォームです。

各R&D研究会では、応用脳科学研究及びその事業活用を目指した独創性の高いテーマが掲げられ、会員企業と、当該テーマに関する専門的な研究知見を有する研究者がアドバイザー、共同研究者として参加し、コンセプトの構築、基礎実験、PoC等を通してデータの蓄積を行ないながら研究開発活動を行います。

各R&D研究会の成果は、当該R&D研究会の参加会員及び研究者によって共有され、参加会員は成果を自社に持ち帰り、自社の事業活動に応用することも可能です。また、将来的に、研究成果をもとにした共同実証実験(さらには事業活用)等に移行することを目指して進められます。

応用脳科学R&D研究会の進行プロセス

オープンイノベーションシステムを採用した研究体制を整備した上で、R&D研究会のプロセス全体を通じて一貫して「事業活用」という目標を共有し、成果創出を加速します。

2023年度開催のR&D研究会

2023年度は以下に示すように、新領域における脳科学の応用脳科学コンソーシアムの可能性を探ると共に、継続研究会については、研究内容のブラッシュアップを行います。R&D研究会は合計5つの研究会を開催する予定です。

※研究会の開催・名称・内容等が変更になる場合がございます。

共感コミュニケーション研究会(継続)

背景

  • ヒトーヒトコミュニケーションについて、リアルコミュニケーションへの回帰は認められるものの、オンラインコミュニケーションは主たるトレンドであり続けている。
  • ヒトー機械コミュニケーションについて、ChatGPTやGPT-4等の高度なチャットボット技術、インタフェース技術の登場により、人間と機械の協業・コラボレーション場面はさらに増加すると予想される。

課題

  • コロナ禍においてオンライン会議、オンラインコミュニケーションの機会が増加。
  • オンラインコミュニケーションではカメラ・マイクオフ等によるSocial signalの伝達不全によって、ミスコミュニケーション等などが発生するリスクが増加。

目標と目指すゴール

  • Social signalから“場の空気”や”満足度”等を可視化し、コミュニケーションの高度化を実現するシステムの構築
<社会実装案>

①社内のオンラインコミュニケーションの評価、改善:定例会議やブレインストーミングなどの会議に適用。コミュニケーションを可視化することで、コミュニケーション不全(特定の人物による会議の支配、他者の話を聞いていない)を予防・改善。より優れたアウトプットの獲得を実現するための会議に向けた示唆を獲得。
②顧客接点(タッチポイント)の高度化:カスタマー窓口(コールセンター等)等の顧客接点に適用。カスタマーのレスポンスを評価することで、より顧客満足度の高い窓口対応を実現。
③オンラインセールスの効率化:セールストークに対するカスタマーのレスポンスを評価。 “刺さる”可能性の高いテーマやコンテンツをレポート。
④社会性行動障害が生じる疾患、状態の判定・検出(※仮説):他者の発話に対する反応性の低下、円滑なコミュニケーション参加ができない等の会議中の社会性行動の問題を早期に判定・検出し、適切な介入につなげる。

活動内容(案)

  • 昨年度は、オンライン会議時のソーシャルシグナル(瞬き、頷き、発話)のダイナミクス分析を通じた複数者間のコミュニケーション分析技術(モデル)の開発を目指した研究に着手。実験系の構築、データ収集、分析手法の検討を実施
  • 本年度は、昨年度取得した実験データの詳細分析を実施し、コミュニケーション分析技術(モデル)の改善、改良を行う。さらに、上記結果を踏まえて改良したコミュニケーション分析技術(モデル)のプロトタイプを対象として、新規実験データを適用し、モデルの有用性及び課題の検討を行う。

AIによる人間の創造性支援研究会

目標

  • 現状では、AIの発展に伴って人間にしかできないものとして“創造性”のある仕事をどのように行うか、創造的な組織をどのようにつくるかという取り組みが主であるものの、今後を見据えると、創造的な取り組みのプロセスにどのようにAIを活用していくのか、どのようなAIが必要とされるのかという視点が必要となる。
  • AIの発展に合わせて人間のアクションを決めるのではなく、AIとの棲み分けを見据えて、「個人や組織の創造性を高めるためにAIが備えるべき要件」を明確にし、積極的にその開発や活用を推進する。
  • 生成系AIが急速に普及していく中で、「個人的な経験、思い、理想」がチームや組織の創造性において重要性が高まっていくことが想定される。 本研究会では、そういった環境の中で既存のアプローチでは捨象されがちな「言語化できない心的表象」に焦点を当て、脳情報を活用していくことで本人も言語化できないようなアイデアや違和感を可視化し、チームや組織にフィードバックすることで創造性を向上させることを目指す。

活動概要

  • ある企画やプロジェクトにおいて必要とされる創造性について、AIが持ちうるものと人間に求められるものの関係性を整理したうえで、人間の創造性を支援するAIのプロトタイプを作成し、実際にプロジェクトに適用することで本領域における研究開発/社会実装を推進する。※対象とする「創造性」:ある企画やプロジェクトにおいて、これまでにない新たなアイデアや手法、価値を創出する力
  • 実際の場面でどのレベルのデバイスでどの程度の精度の計測ができるか、どういった心的表象が精度高く計測できるか、実際の現場で活用しやすいパラダイムは何かなどの検証を行う。
  • 脳情報から言語化できない心的表象を可視化するだけでなく、その情報を生成系AIと共創していく中でどのように活用していくのかの検討も並行して実施する。

次世代「食」情報空間研究会(継続)

目標・目的

•メタバースは世界中で多額の投資を集め多くの企業が参入したが、理想(実現したいこと)と現実(技術的に可能なこと)との乖離等により、その熱狂は徐々に冷めつつある。メタバースやXR等の技術をビジネスに活用するには同技術の現状を正しく理解し、事業ニーズ充足・課題解決手法として位置付ける必要がある。

•こうした認識のもと、「食」に焦点を当て、XR技術をはじめとする情報処理技術を用いて食品の見た目や提示方法を変容し、食品に対する期待や食体験、知覚に与える影響を定量的・体系的に説明するモデル開発を目指す。

活動概要

レストランでの商品選択を題材として、XR技術を用いて商品の外見・提示方法等を変更した複数のメニューを作成。当該メニュー提示時の期待の変化や、実消費時に知覚する味覚や満足感等の変化を評価。期待や実体験に影響する影響因子及び影響量を明らかにする。

Well-Living for Well-Being 研究会(継続)

目的

意思決定、行動の司令塔である脳に着目し、情報医療(Information Medicine)という新たな手法の研究開発を通し、Well-beingな状態を作るために必要なWell-livingを提供する技術・事業(情報医療による科学的介入)の創造、社会実装を目指す。

昨年度の活動内容

  • WLWB研究会における100名×80日規模のライフログ実験と一部介入効果の検証
    • 慢性疼痛軽減システム⇒慢性疼痛自覚者のアンケートおよびライフログデータ取得
    • スマートストレス計測システム⇒視覚刺激によるα波‐ジター波変動計測の基礎検討
    • ポジティブサイコロジー応用システム⇒感謝日記による介入効果の検証
  • 脳科連・産学連携諮問委員会における産学連携活動

本年度の活動概要

  • 大規模ライフログ実験の実施
    • 一般の方約200人を対象として、約3か月にわたる大規模な実験を実施
    • ウェアラブルデバイスを用いた生理データ、スマートフォンの専用アプリケーションを用いた経時的な心理データ、行動データを計測
    • 一部参加者においては経時的な脳波データ、血液検査や唾液検査を介した免疫データも計測
    • これらのデータやこれまでの知見を組み合わせて経時的な心理的ストレス状態やそれらに関連する因子を可視化
  • Well-beingに関連する様々な介入手法やプロダクト、計測方法の効果検証
    • 大規模ライフログ実験の中でWell-beingに関連する様々な介入手法やプロダクトを実際に運用し、その中長期的な効果を多角的に評価する。
    • 例)認知行動療法、瞑想、嗜好品(飲料品、食品など)、サプリメント、フレグランス、リラックス家電など
    • Well-beingやストレスを評価する新規手法を大規模ライフログ実験の中で計測する各種データと比較検証することでその妥当性や有効性を評価する。
      例)体温、発汗、各種スマホアプリなど

など

実験イメージ

手書き価値研究会

目的

  • デジタルデバイスと比較して紙の手帳への手書きの方が記憶の定着に有利であることが示唆されており、概念的理解や知識の応用、創造的発想にもつながると考えられる。本研究会は3年程度を想定し、紙への手書き時の理解度、想像力、創造性等について多面的に評価する。
  • またそこで得られた知見を基にした製品開発や、報道発表・学会発表等を通し社会に向けて発信することを目的とする。

取組内容

今後3年度の活動案を以下に示す。