【事務局長のつぶやき】音楽と脳
22日(火)に応用脳科学アカデミーアドバンスコース3「脳を知り脳に聞く」の第6回最終回が開催されました。「音楽と脳」をテーマに東大・酒井先生、慶應大・藤井先生、NCGG(国立長寿医療研究センター)・佐藤先生の3人にご登壇頂きました。
当日のシラバスはこちら⇒ https://www.can-neuro.org/2023_advance_syllabus/#a3_6
この日は「音楽と脳」にテーマを絞って3人の先生方にお話を頂きました。酒井先生の「音楽の脳科学的効用」から始まり、藤井先生の「リズムを処理する脳-ヒトの音楽性の起源」そして、最後の佐藤先生の「音楽療法と脳科学~失語症に対するメロディックイントネーションセラピー」の話まで、さらに最後のラップアンプミーティングでの脳科学的音楽談義に至るまで、たいへん興味深く、ワクワクするお話が続き、あっという間の5時間でした。
酒井先生のお話は、まず人類最古の楽器のお話。人類最古の楽器が骨製フルートだというのは初めて知りました。さらに言語と音楽が共通の原理を有しているというのにはびっくり。酒井先生によれば、フレージング(音や単語どうしをつなぎ、まとまりの外の区切りの「間」を入れること)とアーティキュレーション(複数の音に抑揚や緩急の変化をつけてまとまりを作ること)により言葉や音楽に「構造」が生まれるとのことでした。これは三人目の佐藤先生も仰っていましたが、言語も音楽も統語により構造的統合が生み出されるということです。そして、音楽経験によって活動する脳部位があり、音楽トレーニングの価値、さらには音楽トレーニングと語学学習の関係、創造力の育成等々、さまざまな音楽の脳科学的効用についてお話を頂きました。
酒井 邦嘉先生の講義概要はこちら⇒ https://www.can-neuro.org/2023/a3_6_1_lecturer/
続いてお話頂いた藤井先生は自らが現役ドラマーとして活躍されている先生で、リズムと人間の関係について、たいへん興味深いお話を頂きました。
リズムとは何か?から始まって、脳科学的リズムの解説、赤ちゃんが感じるリズム、さらに動物が感じるリズム、リズムと身体運動の関係、等々。さらに「グルーヴ感」にある最適ポイントのお話、パーキンソン病の治療への音楽の活用など、脳科学の観点から興味深いお話が盛り沢山でした。ちなみに、日本の音楽産業は米国に続き世界第2位の規模があるにもかかわらず、音楽科学の研究で主要8カ国(日本、米国、中国、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア)の中で最低レベルであり、とりわけ医科学分野では唯一論文件数が減少している状況であるというお話には、日本の市場規模の大きさに驚くとともに、音楽科学について、現在、そして将来の研究開発の遅れが気になりました。
藤井 進也先生の講義概要はこちら⇒ https://www.can-neuro.org/2023/a3_6_2_lecturer/
最後の佐藤先生には昨年は高齢者向けの認知症予防、認知症治療の一環としての音楽体操のお話を中心にお話頂いたのですが、今年は、失語症患者に対する音楽療法のお話を中心にお話頂きました。
脳血管障害から失語症を起こす人が年々増えており、今や約2.5万人/年の勢いで増加しており、これは約20分に一人が新たに失語症を発症している計算になるとのことでした。この失語症患者に対して、メロディックイントネーションセラピー(MIT)という手法が有効であるということから、その日本版(MIT-J)の開発に関するお話やその普及啓発の取組み等について説明頂きました。MIT-Jも音楽療法の一種であり、いわゆる情報医療の分類に入るものだと思いますが、まだまだ現場への普及啓発は遅れており、これからの展開が重要であると感じました。
佐藤 正之先生の講義概要はこちら⇒ https://www.can-neuro.org/2023/a3_6_3_lecturer/
ラップアップでは、受講者からの質問が色々出て、予定を大幅に超えて1時間近くお話を伺うことができました。また、ミュージック・ニューロフィードバック(MNeF)とでもいうような新しい手法が今後開発・実用化されてくるであろうこと、さらに音楽が病気だけではなく、健常者のヘルスケア維持・向上に貢献できるのりしろが非常に大きいという印象を受けました。
CAN会員の方で受講できなかった方は、ラップアップミーティングを除き、後日オンデマンドで視聴できますので、ぜひ視聴して確認ください!