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応用脳科学アカデミー

2023年度

知覚と行動と学習をつなぐ自由エネルギー原理:吉田 正俊(北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 特任准教授)

ベイズ的知覚観というものがあります。われわれ人間やその他の生き物は、たとえば網膜のようなセンサーに時々刻々と入力してくる観測データを元にして、それを生み出した外界の状態(たとえば太陽の高さ)という隠れ値を推定する、このように知覚を捉える立場です。われわれが外界の状態とセンサーの間の関係式(生成モデル)をあらかじめ学習しておけば、センサーのデータをもとにベイズの定理を使って外界の状態を確率的に推定することができるというわけです。ベイズ的知覚観をさらに行動と学習まで拡張したのが自由エネルギー原理です。われわれはつねに外界の状態についての予測を行っており、この予測が最適でありつづけるように、われわれの知覚と行動と学習は方向づけられているというのです。つまり、適応的な知覚、行動、学習はどれも、予測についての変分自由エネルギーが下がる方向への変化として統一的に説明できるというのです。この新しい考えはまだ実証されたとは言えない段階ではありますが、知覚、行動、学習、さらにいえば進化や他者とのコミュニケーションまでを包括する、スケールの大きい理論的枠組です。また、理論的には機械学習における変分自己符号化器(VAE)と等価であり、AIとの関連性からもたいへん興味深いものです。本講義では私が研究している視覚と眼球運動を例にとって、自由エネルギー原理についてなるたけ噛み砕いた説明を行う予定です。

講師

吉田 正俊 先生
北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 特任准教授

日時

2023年8月9日(水)13:00~17:30(12:40より受付開始)第2部 14:20~15:30
当日の全体スケジュールはこちら⇒ アーカイブ受講受付中。詳細・申込は事務局までお問い合わせください。

場所

オンライン(Zoom)

お問い合せ先

本アカデミーに関するご質問等は、「各種お問い合わせフォーム」より、お問い合わせください。

講師紹介

吉田 正俊(よしだ まさとし)先生

現職

  • 北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 特任准教授

経歴

  • 1995年 東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻修士課程 修了
  • 1996年 科学技術振興事業団心表象プロジェクト 研究員
  • 2001年 文部省科学研究費(特別推進) 学術研究支援員
  • 2003年 学位取得:博士(医学)
  • 2003年 生理学研究所・認知行動発達研究部門 助手
  • 2006年 生理学研究所・認知行動発達研究部門 助教
  • 2020年 北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 特任准教授(現在に至る)

研究概要

意識の謎を知りたいと思って研究してきました。我々の大脳の後頭部には、視覚に関わる脳部位(視覚野)があります。この部分が損傷した患者では「盲視」という能力を持っていることがあります。盲視では、視野の一部が欠けている(つまり意識経験がない)のにも関わらず、見えない場所にあるものに手を伸ばしたり、逆に避けたりすることができます。見えるという意識経験と視覚情報を使うことは必ずしも同じではないという証拠です。私はこの盲視の現象について動物モデルを対象とした研究を行い、視覚的意識と視覚的注意の関係について明らかにしてきました。近年ではそれらに加えて、小型霊長類であるマーモセットを対象として、統合失調症における意識経験の変容について明らかにすることを目指して研究を進めているところです。

主な業績

学術論文・創設論文
  • Takakuwa N, et al. (2022) Protocol for making an animal model of “blindsight” in macaque monkeys. STAR Protoc. 4(1):101960. doi: 10.1016/j.xpro.2022.101960.
  • Polyakova Z et al. (2022) The effect of ketamine on eye movement characteristics during free-viewing of natural images in common marmosets. Front Neurosci. 16:1012300. doi: 10.3389/fnins.2022.1012300.
  • Okada KI et al. (2021) Impaired inhibition of return during free-viewing behaviour in patients with schizophrenia. Sci Rep. Feb 5;11(1):3237. doi: 10.1038/s41598-021-82253-w.
  • Chen CY et al. (2021) Properties of visually guided saccadic behavior and bottom-up attention in marmoset, macaque, and human. J Neurophysiol. 125(2):437-457. doi: 10.1152/jn.00312.2020.
  • 吉田正俊 (2018) 自由エネルギー原理と視覚的意識. 日本神経回路学会誌 25(3):53-70
  • Veale R., Hafed ZM. and Yoshida M. (2017). How is visual saliency computed in the brain? Insights from behaviour, neurobiology, and modeling. Phil Trans Roy Soc B 372(1714). pii: 20160113. doi: 10.1098/rstb.2016.0113
招待講演
  • 吉田正俊 (2023) “Visual salience in schizophrenia” 東北大学通研共プロ研究会, オンライン
  • 吉田正俊 (2023) 「サリエンシーマップの注意研究への応用」 第21回「注意と認知」研究会, 名古屋
  • 吉田正俊 (2023) 「統合失調症における視覚サリエンスの変容」学術変革(B)あいまい脳 第3回班会議, 京都
  • 吉田正俊 (2021) 「「意識を教える」からエナクティブ・アプローチへ」シンギュラリティサロン, オンライン
  • 吉田正俊 (2020) 「自由エネルギー原理からエナクティヴィズムへ」全脳アーキテクチャWBAI勉強会, オンライン
  • Yoshida M. (2020) “Enactivism and free-energy principle” 国際ワークショップ Combining Information theoretic Perspectives on Agency (CIPA), 東京

             

関連講義